胃がん
胃がんとは
胃がんは、胃の内側(胃粘膜)にできる悪性腫瘍で、日本ではピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)の長期感染が大きな原因です。長く炎症が続くと細胞が変化し、がんが発生しやすくなります。早期に見つかれば内視鏡(胃カメラ)で病変を取り除いて完治を目指せますが、進行するとリンパ節・肝臓・腹膜などに広がるため、定期的な検診と「気になる症状が続くときに早めの受診」が大切です。

胃がんの原因
胃がんの発生経路としては、主にヘリコバクター・ピロリ菌の慢性感染が関与しています。ピロリ菌が胃粘膜に感染すると慢性胃炎を引き起こし、長期にわたり放置されることで萎縮性胃炎や腸上皮化生といった前がん状態に進行します。さらに細胞の異型性が進むことで、最終的に胃がんが発生します。この過程には長い年月がかかるため、発症前にピロリ菌の除菌や定期的な検診による早期発見が予防の鍵となります。また、喫煙、過度な塩分摂取、野菜不足、家族歴、加齢といった要因も胃がんの発症リスクを高めることが知られています。
日本における胃がんは、依然として罹患数および死亡数が高いがんの一つであり、特に中高年の男性に多く見られるのが特徴です。近年、胃がんによる死亡数は減少傾向にあるものの、依然としてがん全体の中で主要な位置(2022年でのがん別死亡数は肺がん、大腸がんに次ぐ第3位)を占めています。高齢化の影響により患者数は一定数存在しており、公衆衛生上の重要な課題とされています。
胃がんのステージ
進行度は、がんの深さ(T)、リンパ節への広がり(N)、遠くの臓器への転移(M)を総合してI〜IVに分類します。治療方針と見通し(予後)を決める重要な目安です。生存率は年齢・体力・治療内容などで変わるため、以下は一般的な目安です。
ステージI(早期がんが中心)
がんが胃の表面近くにとどまる段階です。内視鏡治療や小さめの手術で治癒が期待でき、5年生存率は約90%前後と非常に良好です。
ステージII
がんがやや深く入り込む、または近くのリンパ節へ一部広がった段階です。手術(胃の切除+リンパ節郭清)が基本で、術後に抗がん剤を追加することがあります。5年生存率はおおむね60〜70%程度です。
ステージIII
がんの広がりが大きい、あるいはリンパ節転移が多い段階です。手術に加え、手術前後の抗がん剤を組み合わせることが一般的で、5年生存率は約30〜50%程度です。
ステージIV
肝臓・肺・腹膜・骨などへの遠隔転移がある段階です。全身の薬物療法(抗がん剤・分子標的薬・免疫療法)が中心となり、症状緩和や栄養サポートも重要です。生存率は低めですが、新しい薬で良い効果が得られる方もいます。
胃がんの種類
胃がんは「性質の違い」によりいくつかのタイプに分かれ、増え方・広がり方や内視鏡治療の適応に影響します。
分化型胃がん
比較的ゆっくり育ち、盛り上がるように見つかることが多いタイプです。早期に見つかれば内視鏡治療の対象になりやすいのが特徴です。
未分化型胃がん
細胞が未熟で、にじむように広がるタイプです。境界が分かりにくいことがあり、リンパ節に広がる可能性がやや高めです。
スキルス胃がん
びまん性に胃壁全体へ硬く広がるタイプで、初期は症状に乏しく、腹膜に散らばる「腹膜播種」を起こしやすい点が特徴です。気になる症状が続く場合は早めの内視鏡が重要です。
胃がんの転移
まずは胃の近くのリンパ節へ、次に血液の流れに乗って肝臓や肺へ、または腹膜へ散らばる形で広がることがあります。左鎖骨の上のリンパ節が腫れる、卵巣に転移する、へそにしこりができるなど、特徴的な転移の形がみられることもあります。治療方針を決めるため、CTなどの画像検査や必要に応じて腹腔鏡でお腹の中を直接確認します。
胃がんの初期症状
初期は無症状のことも少なくありませんが、次のサインが「続く・くり返す」場合は、早めの内視鏡検査をおすすめします。
胃もたれ・みぞおちの不快感
胃もたれ・みぞおちの不快感 食後の重さや張りが長引く場合は注意が必要です。軽い症状でも続くなら受診を。
みぞおちの痛み
空腹時や夜間の鈍い痛みがくり返すときは検査を検討します。
早く満腹になる
少量で満腹に感じ、食事量が減ってきたときは要注意です。
つかえ感・吐き気
食べ物が下に流れにくい感じ、食後のむかつき・嘔吐が続く。
貧血によるだるさ・めまい
慢性的な少量出血で鉄分不足となり、息切れ・立ちくらみを感じることがあります。
黒い便(タール便)
上部消化管からの出血のサインで、早めの受診が必要です。
胸やけ・逆流感
薬で改善しない・長引く場合は、内視鏡での確認が安心です。
胃がんの検査
胃がんの発見には、主に内視鏡検査が用いられています。内視鏡によって胃の内部を直接観察し、異常な粘膜が認められた場合には組織を採取して病理検査を行うことで、正確な診断が可能となります。
その他、進行度や転移の確認にはCT検査、超音波検査、PET検査なども併用されます。これらの検査は、がんの有無だけでなく、進行度(ステージ)や治療方針の決定にも重要な役割を果たします。
血液検査・腫瘍マーカー
貧血や臓器機能、炎症の程度をチェックします。腫瘍マーカー(CEA、CA19-9)は補助的な指標です。
ピロリ菌検査
呼気・便・血液・内視鏡下の組織などで判定し、除菌治療の要否を判断します。胃薬の種類によっては一時的に中止してからピロリ菌の検査を行わないといけない場合もありますので、ご相談ください。
上部消化管内視鏡(胃カメラ)+生検
最重要の検査です。色素や拡大観察などを用いて病変の境界を詳しく見極め、複数箇所から生検して確定します。
胃X線(バリウム)
スクリーニングとして用いられることがあり、異常が疑われれば内視鏡で確認します。
CT/MRI
胸・腹部・骨盤を撮影し、リンパ節、肝臓、腹膜、肺などへの広がりを評価します。
PET-CT
原因不明の遠隔転移の探索など、限られた場面で役立ちます。
腹腔鏡での確認(腹膜洗浄細胞診を含む)
画像で分かりにくい小さな腹膜への広がりを調べ、手術か薬物療法かの方針決定に役立てます。
病理・分子検査
HER2、MSI、PD-L1、EBVなどを調べ、分子標的薬や免疫療法の適応判断に生かします。
胃がんの治療方法
胃がんの治療方法は、がんの進行度や患者の全身状態に応じて異なります。
早期胃がんに対しては、内視鏡的粘膜切除術や内視鏡的粘膜下層剥離術といった内視鏡治療が第一選択となり、体への負担が少ない方法として普及しています。
進行胃がんに対しては、胃の部分または全摘出を行う外科的手術が行われ、必要に応じて周囲のリンパ節も切除されます。さらに、進行度に応じて抗がん剤による化学療法が術前・術後に行われたり、手術が困難な場合には主たる治療となることもあります。近年では、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬といった新しい治療法も導入されており、患者の状態やがんの性質に応じて個別化された治療が進められています。
内視鏡治療(ESDなど)
リンパ節に広がる可能性が極めて低い早期がんで実施します。胃カメラで病変をはがし取るため、身体への負担が比較的少なく、入院期間も短めです。
手術(胃の一部または全部の切除)
病変の位置と広がりに応じて胃を切除し、周囲のリンパ節も取り除きます。腹腔鏡やロボット支援手術で負担軽減が期待できる場合があります。術後は食事のとり方や栄養管理が大切です。
薬物療法(抗がん剤・分子標的薬・免疫療法)
全身に広がったがんの治療の柱です。HER2陽性には専用薬を、MSI-Highなど特定の性質がある場合には免疫療法を選択することがあります。治療選択には分子検査が不可欠です。
放射線療法
出血や痛み、骨転移などの症状緩和を目的に用いることがあります。
緩和ケア・栄養サポート
つらい症状を早くから和らげ、体力や食事を支える取り組みを並行します。生活の質(QOL)を保つうえで重要です。
胃がんの予防
発症リスクを減らし、早期発見につなげることが大切です。
ピロリ菌の検査・除菌
最も効果的な一次予防です。陽性なら除菌を行い、除菌後も必要に応じて内視鏡で経過をみます。
食生活の見直し
塩分は控えめにし、塩蔵・燻製・加工肉の頻度を減らします。野菜・果物を意識して増やしましょう。
禁煙
たばこは胃がんのリスクを上げます。禁煙は他の病気の予防にも有効です。
飲酒の節制
多量飲酒はリスクを上げます。量と頻度の見直しをおすすめします。
体重管理・運動
適正体重の維持と適度な運動を心がけ、50歳以上やリスクが高い方は定期的な胃カメラを検討しましょう。
まとめ
このように、日本における胃がん対策には、生活習慣の改善、ピロリ菌感染の管理、定期的な検診による早期発見、そして多様な治療手段の選択が重要な要素となっています。早期で発見できれば内視鏡で治療も可能で完治も望めます。