クローン病
クローン病とは
クローン病は、口から肛門までの消化管のあらゆる場所に炎症が起こる慢性の病気で、特に小腸と大腸に炎症が多くみられます。症状がよくなったり悪くなったりを繰り返す「再燃・寛解型」の疾患で、若年から中年の人に多く発症し、日本でも近年患者数が増加しています。厚生労働省により指定難病に分類されています。

クローン病と潰瘍性大腸炎の違い
どちらも炎症性腸疾患(IBD)ですが、広がり方と炎症の深さが違います。クローン病は消化管の離れた場所に点在して起こり、腸の奥まで炎症が及ぶため、狭窄や瘻孔、重い肛門病変が生じやすい病気です。潰瘍性大腸炎は大腸の表面(粘膜)に限って、直腸から連続的に広がり、深い傷や瘻孔はまれです。診断は内視鏡・組織・画像・便や血液検査を組み合わせ、感染症を除外したうえで総合的に判断します。
クローン病の原因
クローン病のはっきりとした原因は解明されていませんが、以下のような複数の要因が関与していると考えられています。
- 免疫異常:腸の粘膜に対して免疫が過剰に反応し、自己免疫的な炎症が起こると考えられています。
- 遺伝的素因:家族に患者がいると発症リスクが高まることがあり、遺伝的背景が関与しています。
- 腸内細菌の異常:腸内の常在菌とのバランスの乱れが発症に関与しているとされます。
- 環境因子:欧米型の食生活(高脂肪・低繊維)、喫煙、ストレスなども発症に関係するとされています。
クローン病の症状・初期症状
クローン病の症状は、炎症の部位や重症度によってさまざまですが、初期は、慢性的な下痢、右下腹部の痛み、微熱、だるさ、食欲低下や体重減少がよく見られます。肛門のしこり・痛み・膿、治りにくい裂肛、腫れたスキンタッグ(皮膚のたるみ)が最初の手がかりになることもあります。代表的なものは以下の通りです。
- 腹痛:特に右下腹部(回盲部)に多い。
- 下痢:粘血便や水様便が続くことがあります。
- 発熱:炎症による微熱から高熱まで見られます。
- 体重減少:栄養吸収障害や食欲低下によるもの。
- 全身倦怠感
- 肛門病変:痔ろうや肛門周囲膿瘍などがみられるのが特徴的です。
- 腸外症状:関節炎、皮膚炎、ぶどう膜炎(目の炎症)などが合併することがあります。
クローン病の分類
クローン病は、炎症の部位や病変の形態によって分類されます。
発症部位による分類
- 小腸型:小腸に炎症が集中(特に回腸末端)。
- 大腸型:大腸に炎症が集中。
- 小腸・大腸型:小腸と大腸の両方に炎症(最も多い型)。
病変のタイプ
- 炎症型:単なる粘膜の炎症で軽度な経過をとる。
- 狭窄型:炎症が進行し、腸が狭くなって通過障害をきたす。
- 穿孔型(瘻孔型):腸に穴が開き、他の臓器や皮膚とつながる瘻孔ができる。
クローン病の検査方法
血液検査で炎症・貧血・栄養状態を確認し、便の検査(便中カルプロテクチンなど)で腸の炎症の強さを推測します。大腸内視鏡では終末回腸(小腸の出口)まで観察して特徴的な潰瘍を確認し、組織検査を行います。小腸の詳しい評価にはMRI/CTを用い、腸の厚み・狭窄・膿瘍や瘻孔の有無を調べます。カプセル内視鏡は狭窄があると詰まる恐れがあるため、通過できるかを確認してから行います。肛門周囲の病変は骨盤MRIで瘻孔の走行や膿の場所を正確に把握できます。
クローン病は完治する?
現在、完全に治して再発しない状態にする治療法はありません。ただし、治療を計画的に続けることで、症状を抑え、腸の粘膜をできるだけきれいに保つ(粘膜治癒)ことができるようになってきました。適切な治療と定期的なチェックにより、仕事や学校、日常生活を大きく損なわずに過ごせる方が増えています。
クローン病の治療方法
クローン病は根本的な完治が難しい病気ですが、適切な治療によって症状を抑え、再発を防ぐことが可能です。治療は以下のように行われます。
薬物療法
- 5-ASA製剤(メサラジンなど):軽症の炎症に有効。
- 副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンなど):中等症以上の炎症に使用されるが、長期使用は避ける。
- 免疫調整薬(アザチオプリン、6-MPなど):再発予防やステロイドの減量に使用。
- 生物学的製剤(抗TNF-α抗体、抗IL-12/23抗体など):難治例や重症例に対して効果があり、近年の治療の中心になりつつある。
- JAK阻害薬・S1P受容体調節薬など:新規作用機序の薬剤として注目されている。
栄養療法
- 経腸栄養(エレンタールなど):腸を休ませ、栄養を補うために使用されます。特に成長期の小児・若年者に重要です。
外科的治療
腸閉塞や瘻孔、膿瘍などの合併症が起きた場合には、外科手術が必要となります。ただし、手術後も再発することが多く、長期的な治療管理が必要です。
生活指導
- 禁煙:喫煙はクローン病の再発や悪化のリスクを高めるため、禁煙が強く推奨されます。
- 食事管理:低脂肪・低残渣食が基本。症状が安定している時期はある程度自由な食事も可能です。
- ストレス管理:再燃の誘因となるため、十分な休養や心理的サポートも重要です。
クローン病の運動制限
症状が落ち着いている時期(寛解期)は、息が少し上がる程度の有酸素運動や軽い筋トレが体力と骨の維持に役立ちます。悪化している時期や貧血・栄養不良がある時は、激しい運動や強くいきむ動作は控えめに。肛門病変やセットン留置中は、自転車などサドルで圧迫する運動は避け、ウォーキングやエリプティカルなどに切り替えると安心です。脱水を防ぎ、腹痛・発熱・血便・体重減少など再燃の兆しがあれば運動量を見直してください。
クローン病と食事の注意点
食事は体調や腸の狭窄の有無で調整します。症状が強い時や狭窄が疑われる時は、消化しにくい硬い繊維(玄米、ナッツ、種子、ポップコーン、生の根菜など)を避け、脂っこい料理・揚げ物・濃い乳脂肪は控えめに。香辛料、アルコール、カフェイン、炭酸飲料は症状を誘発しやすいため、体調を見ながら加減しましょう。乳糖不耐がある場合は乳製品を調整し、人工甘味料や高FODMAP食品が合わない方もいます。元気な時期は、十分なたんぱく質とエネルギーをとり、鉄・ビタミンB12・ビタミンD・亜鉛の不足があれば補充します。個人差が大きいため、食事日記で自分に合う・合わないを把握すると役立ちます。
まとめ
クローン病は一生付き合っていく必要のある病気ですが、医療の進歩により多くの患者が日常生活を維持できるようになっています。再燃の予防と早期対応のため、定期的な診察と自己管理がとても大切です。