過敏性腸症候群
過敏性腸症候群とは

過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)は、腸に明らかな構造的異常がないにもかかわらず、慢性的な腹痛や腹部不快感とともに、便通の異常(下痢や便秘など)を繰り返す機能性消化管障害の一つです。比較的若い世代に多く、ストレスや生活習慣と密接に関係しており、日本でも非常に多くの人が罹患しています。
過敏性腸症候群の原因
原因は一つに特定されていませんが、複数の因子が複雑に関与していると考えられています。主な要因としては、精神的ストレス、自律神経の不調、腸の知覚過敏、腸内細菌のバランス異常、感染性腸炎の既往(いわゆる「感染後IBS」)などが挙げられます。ストレスや緊張が腸の運動や分泌に影響を与えることで、過敏に反応して症状が出ると考えられています。また、腸の神経が通常よりも刺激に敏感になる「内臓知覚過敏」も特徴的な機序の一つです。
過敏性腸症候群の症状
症状は大きく腹痛・腹部不快感と便通異常の2つを中心とし、それが数か月以上にわたり継続または繰り返されます。典型的には、腹痛が排便によって軽減するという特徴があります。便通異常は個人によって異なり、下痢、便秘、あるいは両方を繰り返すことがあります。その他、腹部膨満感、ガスの多さ、排便後の残便感などもよく見られます。これらの症状は、日常生活や仕事・学業に大きな影響を及ぼすことがありますが、腸の炎症や腫瘍といった器質的な病変は確認されません。
過敏性腸症候群の分類
過敏性腸症候群は、主に便通パターンの違いにより、以下の4つに分類されます。
- 便秘型(IBS-C):硬便やコロコロした便が多く、排便困難を伴う。
- 下痢型(IBS-D):軟便や水様便が多く、突然の強い便意を伴う。
- 混合型(IBS-M):便秘と下痢が交互に現れる。
- 分類不能型(IBS-U):上記のいずれにも明確に当てはまらない。
過敏性腸症候群の治療
治療は、症状のタイプと程度に応じて個別化されます。まず基本となるのは生活習慣の改善とストレス対策です。規則正しい食事、十分な睡眠、適度な運動、ストレスの回避・解消が症状の軽減につながります。食事面では、食物繊維の調整、乳製品やカフェイン、脂質の多い食事、刺激物の制限が推奨される場合もあります。また、近年ではFODMAP(発酵性の糖質)の制限が症状改善に有効であるとする研究も増えています。
薬物療法も症状に応じて行われます。下痢型には整腸薬や腸の動きを抑える薬(抗コリン薬、セロトニン3受容体拮抗薬など)、便秘型には下剤や腸管運動促進薬、浸透圧性下剤、セロトニン4受容体作動薬などが用いられます。腹痛や膨満感に対しては、消泡剤、鎮痙薬、漢方薬なども処方されます。また、精神的要因が強く関与している場合には、抗不安薬や抗うつ薬、心理療法(認知行動療法など)が併用されることもあります。
過敏性腸症候群は命にかかわる病気ではありませんが、生活の質(QOL)に大きな影響を与えるため、早期に適切な対応を取ることが重要です。医師による正確な診断と、患者自身の理解・自己管理が症状の改善と安定に大きく寄与します。