潰瘍性大腸炎
潰瘍性大腸炎とは

潰瘍性大腸炎は、大腸の粘膜に慢性的な炎症を引き起こす原因不明の疾患で、炎症が主に直腸から始まり、連続的に上行して結腸全体に及ぶことがある”炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)”の一つです。発症と寛解(症状が落ち着いた状態)を繰り返す慢性疾患で、日本でも患者数が年々増加しており、厚生労働省の「指定難病」にも認定されています。
潰瘍性大腸炎の原因
潰瘍性大腸炎の明確な原因は未だ解明されていませんが、複数の要因が関与していると考えられています。主な仮説としては、”免疫異常、遺伝的素因、腸内細菌の異常、環境因子(食生活、感染など)”が複合的に関与し、本来は自己を攻撃しないはずの免疫機構が、大腸の粘膜を異物と認識して攻撃することで、炎症が慢性的に続くと考えられています。家族に潰瘍性大腸炎の患者がいる場合、発症リスクが高まることから、遺伝的背景も重要な要素とされています。
潰瘍性大腸炎の症状
代表的な症状は、血便、下痢、腹痛、発熱、体重減少などです。出血を伴う下痢が繰り返されるのが典型で、重症になると1日に10回以上の下痢が続くこともあります。また、直腸炎型では排便時の出血や残便感が主であるのに対し、広範囲に炎症が及ぶ場合は、強い腹痛や全身症状が出現します。長期間炎症が続くと、腸管以外にも関節炎、皮膚病変、ぶどう膜炎などの腸管外合併症が見られることもあります。
潰瘍性大腸炎の分類
潰瘍性大腸炎は、炎症の広がり(病変の部位)と症状の重症度に基づいて分類されます。
病変部位による分類
- 直腸炎型:直腸に限局した炎症。軽症のことが多い。
- 左側大腸炎型:直腸から下行結腸までの左側大腸に炎症が及ぶ。
- 全大腸炎型:大腸全体に炎症が広がる。症状が重くなる傾向。
重症度による分類(厚生労働省の基準など)
- 軽症:排便回数が少なく、全身症状も少ない。
- 中等症:排便回数が増加し、軽度の発熱や貧血がみられる。
- 重症:血便・下痢が頻回で、体重減少や高熱、著しい貧血など全身状態が悪化。
潰瘍性大腸炎の治療方法
治療の目標は、「炎症のコントロール」「症状の軽減」「再発の予防(維持療法)」です。病状の重症度や範囲に応じて、薬物療法を中心に治療が行われます。
薬物療法
- 5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤:炎症を抑える基本薬。軽~中等症に有効で、内服または座薬・注腸剤として使用。
- ステロイド剤:中等症~重症の再燃時に使用。炎症を速やかに抑えるが、長期使用による副作用があるため、寛解後は減量・中止を目指す。
- 免疫調節薬(アザチオプリンなど):ステロイドの減量や再発予防に用いられる。
- 生物学的製剤(抗TNFα抗体、抗IL-12/23抗体など):重症例や従来の治療が効かない難治例に使用され、近年の治療選択肢として広がっている。
- JAK阻害薬やS1P受容体調節薬:新しい作用機序の薬剤として登場し、難治例に有効なことがある。
外科的治療
薬物治療が無効な重症例や、がん化のリスクが高い場合には、大腸を切除する手術が行われます。代表的なのは”大腸全摘+回腸嚢肛門吻合術(IPAA)”で、人工肛門を避けることが可能な術式です。
食事療法と生活指導
特定の食事が原因ではないものの、消化に優しい食事を心がけ、症状に応じた栄養指導が行われます。また、ストレスや過労も再燃の引き金となるため、生活リズムの改善や精神的サポートも重要です。
潰瘍性大腸炎は、完治が難しい病気ですが、近年は治療法の進歩により、寛解を維持しながら日常生活を支障なく送ることが可能な時代となっています。症状の自己管理と医療者との連携による長期的な治療が、生活の質を保つ鍵となります。